大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

松江地方裁判所 昭和29年(行)13号 判決

松江市天神町三三番地

原告

川岡博吉

右訴訟代理人弁護士

君野駿平

同市内中原町二一番地

被告

松江税務署長

広戸常義

指定代理人 森川憲明

鴨井孝之

原芳太郎

米沢久雄

浅田和男

右当事者間の昭和二九年(行)第一三号所得税更正決定等取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告が原告に対し昭和二六年八月二五日原告の昭和二五年度所得税についてなした更正決定中、総所得金額四九〇、九一八円六七銭、所得税額一七九、九五〇円、過少申告加算税額四、二五〇円をこえる部分を取り消す。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が原告に対し昭和二六年八月二五日に原告の昭和二五年度所得税についてなした更正決定中、総所得金額二一三、〇〇二円税額四三、四〇〇円をこえる部分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因して、

「一、原告は松江市においてその住宅の一部を店舗として洋楽器ならびに附属品の販売を業とするものであるが、原告が被告に対してなした原告の昭和二五年度(昭和二五年一月一日ないし同年一二月三一日)所得税に関する確定申告について、被告は昭和二六年八月二五日に、

総所得金額

事業所得 五〇〇、五二二円

諸控除額 六一、〇〇〇円

課税総所得金額 四三九、五〇〇円

所得税額 一八四、七五〇円

過少申告加算税額 四、五〇〇円

とする更正決定をなした。

そこで、原告はこれを不服として同年九月二五日被告に対し再調査の請求をなしたが、被告は間もなく同請求を却下する決定をしたので、原告は法定期間内である同年一一月一九日広島国税局長に審査請求をしたところ、同局長は昭和二九年八月五日被告のなした再調査請求却下決定を取り消し審査請求を棄却する決定をした。

二、しかしながら、原告の昭和二五年度総所得金額は、以下損益計算のとおり二一三、〇〇二円(円位未満切捨)に過ぎない。

(利益の部)

売上金額(ピアノ) 一、二五三、五二九円九〇銭

同 (一般商品) 一、八六九、一二一円七一銭

期末棚卸商品 〃 六五七、八四八円三〇銭

委託商品残 四七、七六七円二〇銭

内訳 進電社ラヂオ店(松江市) 二、一〇〇円

原恵美子(平田市) 二一、九五一円

石塚一男(海士郡) 二三、七〇六円二〇銭

修理収入 一〇、〇〇〇円

合計 三、八三八、二六七円一一銭

(損失の部)

期首棚卸商品 四〇〇、〇〇〇円

仕入金額(ピアノ) 一、一八八、一八〇円

同 (一般商品) 一、七七八、七八六円〇五銭

必要経費 二五八、二九九円

当期利益金 二一三、〇〇二円〇六銭

合計 三、八三八、二六七円一一銭

(一)  前記売上金額(ピアノ)一、二五三、五二九円九〇銭算出の根拠は次のとおりである。

まず次式のとおりピアノの売上原価一、一八八、一八〇円を算出した。

{期首棚卸額(0円)+当期仕入金額(1,118,180円)}-期末棚卸額(0円)=売上原価1,188,180円

ところで原告の当期売買実例によれば、売上原価は一八七、〇〇〇円ないし一八二、五〇〇円平均一八四、七五〇円、売上金額は二二二、〇〇〇円ないし二二〇、〇〇〇円平均二二一、〇〇〇円であるが、サービス価額として、

例一、持田小学校との取引については、

ピアノカバー、ピアノ用丸椅子、アコーデオン

計 二五、〇〇〇円

販売人手数料 三、〇〇〇円

合計 二八、〇〇〇円

例二、県小学校との取引については、

ピアノ用丸椅子 三、二五〇円

ピアノカバー 五、〇〇〇円

視察団接待費 二二、二〇〇円

合計 三〇、四五〇円

例三、久多美小学校との取引については

ピアノ用丸椅子 三、二五〇円

ピアノカバー 六、五〇〇円

ヴアイオリン ケース付 四、〇〇〇円

木琴一六半音付五組 三、〇〇〇円

販売手数料 三、〇〇〇円

合計 一九、七五〇円

以上平均 二六、〇六六円

が計上されるので、結局売買差益率は次式から得られる〈省略〉となすべきであるから、その売買換算率は〈省略〉である。

{売上金額(221,000円)-売上原価(184,750円)-サービス価額(26,066円)}÷売上原価(184,750円)=5.5

そこで前記売上原価一、一八八、一八〇円に右売上換算率〈省略〉を乗じて売上金額一、二五三、五二九円九〇銭を算出した。

(二)  前記売上金額(一般商品)一、八六九、一二一円七一銭算出の根拠は次のとおりである。

(イ)  一般商品のうち委託販売分は、原告の仕入価額によると、

進電社ラヂオ店 一〇、〇〇〇円

原恵美子 一〇〇、〇〇〇円

石塚一男 一二〇、〇〇〇円

合計 二三〇、〇〇〇円

であるところ、その販売益は右仕入価額の一割であるので、右二三〇、〇〇〇円に〈省略〉乗じて売上金額二五三、〇〇〇円を算出した。

(ロ)  一般商品のうち小売販売(店売ならびに小売)分は、まず次式のとおり一般商品全部の売上原価一、四七三、一七〇円五五銭を算出した。

{期首棚卸額(400,000円)+当期仕入金額(1,778,786円05銭)}-{期未棚卸額(657,848円30銭)+委託商品残(47,767円20銭)}=売上原価(1,473,170円55銭)

つぎに右売上原価一、四七三、一七〇円五五銭から前記委託販売分仕入価額二三〇、〇〇〇円を減じて、小売販売分売上原価一、二四三、一七〇円五五銭を算出した。そして、これに被告の主張する売上換算率〈省略〉を乗じて売上金額一、六一六、一二一円七一銭を算出した。

(ハ)  そうして(イ)委託販売分売上金額二五三、〇〇〇円と(ロ)小売販売分売上金額一、六一六、一二一円七一銭とを合計して売上金額(一般商品)一、八六九、一二一円七一銭を算出した。

(三)  前記必要経費二五八、二九九円の明細は次のとおりである。

1  運賃三、二六二円(支払先日本通運株式会社)

内訳 五月一二日 一九〇円

六月 八日 九八〇円

七月 三日 七六二円

同月 同日 二一〇円

八月二〇日 三九一円

九月一八日 一〇〇円

同月二二日 二七三円

一〇月 九日 一三一円

一二月二三日 二二五円

2  修繕費一五、二六七円

内訳 三月一七日 四、〇二五円(富士電機工業所、電蓄修理)

八月二一日 四四五円(同、同)

九月一七日 五〇〇円(同、同)

一〇月一五日 二、三〇〇円(同、スピーカー取付)

三月二九日 一、八二〇円(中国電気工業(株)、電気工事)

五月二九日 二、二〇〇円(川本正明)

六月三〇日 五〇〇円(花田錻力店、とい修理)

七月一〇日 二二〇円(藤井俊男、鞄修理)

八月一九日 七〇〇円(高見、ペンキ塗り)

一二月三一日 二二〇円(福本直助、ストーブ取付)

月日不詳 二、三三七円(太田政次郎、同)

3  組合費四、八四〇円

内訳 四月一九日 七五〇円(島取県楽器商組合、一月ないし五月分)

一二月 七日 六〇〇円(同、六月ないし九月分)

同 月三一日 四五〇円(同、一〇月ないし一二月分)

同 月二五日 二、五四〇円(天神町商店会、福引券代)

同 月三一日 五〇〇円(同、会費)

4  消耗品事務用品費五、四一三円

内訳 一月二四日 四九〇円(松村弘文堂、事務用品)

二月二四日 三五〇円(同、紙ひも)

三月一八日 八六円(同、事務用品)

六月一四日 一一七円(同、糊ほか)

五月一〇日 一一〇円(田村印房、ゴム糊)

同月 同日 一一〇円(柳屋書店、事務用品)

六月 八日 一五〇円(原田紙店、紙ひも)

七月二七日 二八〇円(同、用紙)

一二月二九日 七〇円(同、事務用品)

六月一二日 三五〇円(中国電力、電球)

同月三〇日 一、九〇〇円(春名喜平、凾)

九月一九日 三〇〇円(福田、事務用品)

一〇月一六日 四〇〇円(原文タイプ、印鑑簿)

一二月一五日 四〇〇円(同、同)

同 月二五日 六〇円(松江バザー、モール)

月日不詳 二四〇円(高見紙店、証券用紙)

5  印刷費一三、八九〇円

内訳 一月一〇日 一、二〇〇円(恵運社印刷所、はがき印刷)

九月二五日 七五〇円(同、同)

五月三〇日 六〇〇円(昭和印刷所、値段表)

八月 二日 一、八〇〇円(同、曲目カード)

同月三一日 一、四〇〇円(同)

九月 三日 四五〇円(同、名刺印刷)

一二月一八日 三〇〇円(同、曲目カード)

六月一三日 三、九〇〇円(黒船アトリエ、ポスター)

八月二七日 二九〇円(とやま孔房、推せんの言葉)

九月 一日 一、四四〇円(松江孔芸社、はがき印刷)

同月二五日 一、七六〇円(大山印刷所、同)

6  広告宣伝費二七、四〇〇円

内訳 一月二二日 二〇〇円(島大教育学部)

一〇月一九日 一、五〇〇円(同)

一二月 九日 五〇〇円(同附属小学校)

二月 二〇〇円(乃木小学校)

三月 五〇〇円(島根新聞社、三月八日分)

七月三一日 一、〇〇〇円(同、七月二四日分)

同月同日 二、〇〇〇円(同、七月二三日、二六日分)

月日不詳 六〇〇円(同、九月分)

同 一、五〇〇円(同、同月分年中)

同 一、二〇〇円(同、一〇月分)

同 一、五〇〇円(同、同月分年中)

同 一、二〇〇円(同、一一月分)

同 一、五〇〇円(同、同月分年中)

同月一九日 二〇〇円(朝日小学校)

六月 五日 二〇〇日(松江軽音楽協会)

同月 九日 八〇〇円(島根防犯タイム社)

七月 四日 一、〇〇〇円(川津小学校)

同月一七日 一、〇〇〇円(葛上清治)

八月 五〇〇円(山陰日々新聞社、七月一九日分)

同月 八〇〇円(同、七月二四日分)

九月一三日 五〇〇円(児童福祉施設連盟)

一〇月一六日 三〇〇円(松江高校音楽部)

同 月二七日 三〇〇円(雑賀小学校)

一二月一五日 二、〇〇〇円(日本海新聞松江支部、七月二一日、二五日、三〇日分)

同 月三一日 九〇〇円(同、七月二六日分)

同月同日 二、〇〇〇円(同、八月六日、一三日、二〇日、二六日分)

月日不詳 二、〇〇〇円(同、九月一〇日、一七日、二四日分)

一二月一九日 一〇〇円(松江地方貯金局)

月日不詳 六〇〇円(松江市公会堂映画協会)

同 八〇〇円(島根教職員組合)

7  電話料一、四三七二円

内訳 月日不詳 九六〇円(一月分)

同 九六〇円(二月分)

同 九六〇円(三月分)

同 九六〇円(四月分)

五月二四日 九六〇円(五月分)

六月一九日 一、三九二円(六月分)

月日不詳 一、四〇一円(七月分、六月分と八月分の平均)

八月一四日 一、四〇一円(八月分)

九月一三日 一、六二八円(九月分)

月日不詳 一、四六三円(一〇月分、九月分と一一月分の平均)

一一月三〇日 一、二九八円(一一月分)

一二月一五日 九八〇円(一二月分)

8  電灯料四、二三八円(中国配電株式会社)

内訳 一月二〇日 四一五円(一月分)

二月二〇日 三五九円(二月分)

三月二〇日 三四八円(三月分、二月分と四月分の平均)

四月二〇日 三三七円(四月分)

五月二〇日 二六五円(五月分)

六月二〇日 二三三円(六月分)

七月二〇日 二〇二円(七月分)

八月二〇日 二九二円(八月分)

九月二〇日 二三三円(九月分)

一〇月二〇日 四五三円(一〇月分)

一一月二〇日 五二四円(一一月分)

一二月二〇日 五七七円(一二月分)

9  薪炭費五、三五〇円

内訳 一二月三一日 二、一五〇円(島根石炭販売株式会社、石炭)

月日不詳 三、二〇〇円(木炭店舗使用分、一月ないし五月は月一俵、六月ないし九月は月半俵、一〇月ないし一二月は月一俵、単価三二〇円計一〇俵分)

10  公租公課五一、六四〇円

内訳 事業税 四六、八〇〇円

固定資産税 四、〇〇〇円(同税八、〇〇〇円のうち店舗分相当の二分の一)

収入印紙 八四〇円(月三五枚年間四二〇枚分)

11  図書費一、八六〇円

内訳 七月三〇日 三〇〇円(月刊楽器商報社、一カ年分)

各 月計 一、五六〇円(朝日新聞、店舗用一部)

12  接待費二八、八〇〇円

内訳 二一、六〇〇円(来客用接待菓子代)

七、二〇〇円(お茶代)

13  旅費四八、〇〇〇円

一カ月 四、〇〇〇円の一カ年分

14  人件費一五、〇〇〇円

足立菊雄に対する一〇月一五日ないし一二月三一日分の月六、〇〇〇円の人件費合計額

15  雑費六、〇〇〇円

16  減価償却費一二、九六七円

内訳 家屋、店舗造作 七、五〇〇円(取得価額二五〇、〇〇〇円、耐用年数三〇年)

電蓄 四、五〇〇円(同四〇、〇〇〇円、同八年)

陳列ケース 七八七円(同七、〇〇〇円、同八年)

机椅子 一八〇円(同二、〇〇〇円、同一〇年)

三、以上の次第であるので、原告の昭和二五年度の総所得金額は二一三、〇〇二円であり、課税所得金額は右二一三、〇〇二円から基礎控除二五、〇〇〇円、扶養控除三六、〇〇〇円、合計六一、〇〇〇円を控除した一五二、〇〇二円であるからその税額は所得税法第一五条同法別表第一所得税の簡易税額表(昭和二五年法律第七一号)により四三、四〇〇円である。従つて本件更正決定中右総所得金額二一三、〇〇二円、税額四三、四〇〇円をこえる部分は違法であるから、同部分の取消を求める。」と述べ被告の主張に対して

四、被告主張の資産負債増減調査の方法によるとすれば、原告の昭和二五年度の総所得金額は以下計算のとおり一九六、三二一円二〇銭に過ぎない。

(資産の部)

〈省略〉

右期末売掛金内訳 石塚一男 二三、七〇六円二〇銭

原恵美子 二一、九五一円

進電社ラヂオ店 二、一一〇円

(負債の部)

被告が内訳を示して主張するとおりであるので負債増加額は二三二、六二〇円である。

従つて、右資産増加額一八四、六三二円二〇銭と右負債増加額二三二、六二〇円から差引純資産増減額は減四七、九八七円八〇銭となり、これに対し次式のとおり加減すると所得金額一九六、三二一円二〇銭(一九四、〇〇一円二〇の誤算と認める)が算出される。

純資産増減額(-47,987円80銭)+{生活費(150,000円)+所得税支払額(59,956円)+市民税支払額(45,000円)}-減価償却費(12,967円)=所得金額(194,001円20銭)。」と述べ、

立証として、甲第一号証ないし第三号証、第四号証の一、二、第五号証、第六号証の一ないし九、第七号証の一ないし八、第八号証の一ないし四、第九号証の一ないし七、第一〇号証の一ないし二、一、第一一号証の一ないし六、第一二号証の一ないし一一、第一三号証ないし第一五号証、第一六号証、第一七号証の各一、二を提出し、証人原恵美子、同田辺正夫、同長谷川仁の各証言、原告本人尋問の結果を援用し、乙第三号証の一ないし三、第七号証の二、第九号証の二、三、第一〇号証の二、第一二号証の一ないし四、第一七号証の一、第一九号証の一ないし六、第二一号証、第二三号証の二の各成立を不知、その余の乙各号証の成立を認めると述べた。

被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、答弁ならびに主張として、

「一、原告主張一の事実は認める。

二、被告は本件更正決定を行なうにあたつて調査をしたが、原告は所得額を明らかにした帳簿書類を整理しておらず、取引に関する断片的資料を提出したので、被告はやむなく各資料や原告の申立ならびに原告の取引先を調査した資料等により仕入、売上換算率経費等を認定したものであつて、原告の昭和二五年度の総所得金額は以下収支計算のとおり五二〇、二六五円(円位未満切捨)である。

(収入の部)

売上金額 三、三〇五、二九一円七一銭

期末棚卸商品 六五七、八四八円三〇銭

委託商品残 四七、七六七円二〇銭

修理収入 一〇、〇〇〇円

合計 四、〇二〇、九〇七円二一銭

(支出の部)

仕入金額 二、九六六、九六六円〇五銭

期首棚卸商品 四〇〇、〇〇〇円

必要経費 一二四、九七六円

当期利益 五二〇、二六五円一六銭

サービス品売上利益 八、七〇〇円

合計 四、〇二〇、九〇七円二一銭

(一)  前記売上金額三、三〇五、二九一円七一銭は、ピアノの売上金額一、三九〇、一七〇円とピアノを除く商品の売上金額一、九一五、一二一円七一銭との合計であるが、右ピアノの売上金額の算出根拠は次のとおりである。

まず次式により売上原価一、一八八、一八〇円を算出した。

{期首棚卸額(0円)+当期仕入金額(1,188,180円)}-期末棚卸額(0円)=売上原価1,188,180円

そして右売上原価一、一八八、二八〇円に売上換算率〈省略〉を乗じて売上金額一、三九〇、一七〇円を算出した。

ところで右売上換算率は、判明した次表六台の取引実例から、次式により得たものであつて、原告の取引の実情に最も合致した売上換算率である。

〈省略〉

〈省略〉

原告が主張する売上換算率〈省略〉は、サービス品の贈呈のあつた事例のみを摘出して算出したもので原告の取引実態と異なり、かつ、計算の基礎となつたサービス品の価額、売上金額等の平均価額および売上原価の平均価額がいずれも事実と相違しているので、適正な売上換算率でない。

なお、右取引実例表のとおり販売先の判明した分のピアノ販売にともなうピアノ売上原価に含まれていないサービス品の価額合計二七、九七五円と、販売先の判明しない分の同サービス品価額一、〇二五円(販売先不明のピアノ売上原価が四二、七〇〇円であるところ、これに対して、右取引実例表のピアノ売上原価に含まれていないサービス品合計二七、九七五円の売上原価合計一、一四五、四八〇円に対する比率二・四%を乗じて算出した)との合計二九、〇〇〇円に、ピアノ以外の商品の後記所得標準率による売上利益率〈省略〉を乗じて得た八、七〇〇円は、売上利益がないこととなるので、これを支出の部にサービス品売上利益八、七〇〇円として計上した。

(二)  前記売上金額三、三〇五、二九一円七一銭のうちピアノを除く商品の売上金額一、九一五、一二一円七一銭を算出した根拠は次のとおりである。

まず、次式により売上原価一、四七三、一七〇円五五銭を算出した。

{期首棚卸額(400,000円)+当期仕入金額(1,778,786円05銭)}-期末棚卸額(小売商品棚卸額657,848円30銭+委託販売商品残47,767円20銭=705,615円50銭)=1,473,170円55銭

そして右売上原価一、四七三、一七〇円五五銭に売上換算率〈省略〉を乗じて売上金額一、九一五、一二一円七一銭を算出した。

ところで右売上換算率は、原告の審査請求書にピアノを除く商品の小売ならびに委託販売を一括した売上金額を一、二〇五、六三一円五七銭、売上原価を九二七、四〇八円九〇銭、すなわち、(仕入金額1,233,024円40銭+期首棚卸額400,000円)-(期末棚卸額657,848円30銭+委託販売商品在庫47,767円20銭)=927,408円90銭と記載していたので、右売上金額と売上原価の差二七八、二二二円六七銭を売上原価九二七、四〇八円九〇銭で除して販売利益率〈省略〉を算出し、これに基づいて売上換算率〈省略〉となつたものである。しかも、右売上換算率は、広島国税局協議官が原告の申立てる品目別の売買実例から算出した売上換算率が〈省略〉であつたことから考えても妥当というべきである。仮りに原告の主張するように委託販売品については売上換算率が多少低下するとしても、委託販売額は少額であるから売上換算率〈省略〉より著しく低下することはない。

原告は委託販売について売上換算率〈省略〉と主張するが、その計算の根拠となつている販売区分別の売上金額、仕入金額は、被告の調査当時不明であつたもので、後日原告が恣意的に作成したものと考えるのほかない。

(三)  前記仕入金額二、九六六、九六六円〇五銭の仕入先別明細は次のとおりである。

1  三木楽器店 六四九、三〇五円七五銭(内ピアノ四〇七、七〇〇円)

2  サカクラ 一三四、四二二円

3  大阪屋 一四、〇六八円五〇銭

4  全音楽出版社 一二四、九六七円

5  マルエス 三三四、〇七六円

6  日本楽器 八二九、一四九円五〇銭(内ピアノ七八〇、四八〇円)

7  音楽之友社 二五八、八六四円

8  日本ビクター 二五六、三六九円

9  ポリドール産業 三〇、八四〇円

10  白眉社 一〇、七〇八円七五銭

11  宇野ハーモニカ 二七、七二四円八〇銭

12  好楽社 一八、六六三円

13  国際楽器 四〇、四八〇円

14  新興音楽出版社 一〇、八二八円七五銭

15  関西楽器 八〇、六九八円

16  春日楽器 五六、〇九〇円

17  ユニオン 八九、七一一円

(四)  前記必要経費一二四、九七六円の明細は次のとおりである。

1  運賃 三、一六二円

原告主張の運賃三、二六二円のうち九月一八日一〇〇円を除く、その余三、一六二円を認めたものである。右九月一八日の一〇〇円は他店のための一時立替払である。

2  修繕費 六、八二五円

原告主張の一五、二六七円のうち三月一七日四、〇二五円、六月三〇日五〇〇円、一〇月一五日二、三〇〇円の合計六、八二五円を認めたものである。

3  組合費 四、八四〇円(原告主張のとおり)

4  消耗品事務用品費 五、四一三円(同右)

5  印刷費 六、五六〇円

原告主張の一三、八九〇円のうち五月三日六〇〇円、六月一三日三、九〇〇円、九月二五日一、七六〇円、一二月一八日三〇〇円の合計六、五六〇円を認めたものである。

6  広告宣伝費 七、八〇〇円

原告主張の二七、四〇〇円のうち島大教育学部に対する一月二二日二〇〇円、一〇月十九日一、五〇〇円、島根新聞社に対する九月分六〇〇円、一、五〇〇円、一〇月分一、二〇〇円、一、五〇〇円、松江軽音楽協会に対する二〇〇円、児童福祉施設連盟に対する五〇〇円、松江市公会堂映画協会に対する六〇〇円の合計七、八〇〇円を認めたものである。

7  電話料 七、一八六円

原告主張の一四、三七二円は、家事使用分と商用使用分の割合が不明であるほか貸電話による収入も明確でないため、二分の一を営業用として認めたものである。

8  電灯料 二、一一九円

原告主張の四、二三八円は、家屋が年の中途で新築改造されたほか家屋そのものの構造から家事使用分と店舗使用分と区別して計算することができないため、二分の一を営業用として認めたものである。

9  薪炭費 四、〇七〇円

原告主張の五、三五〇円のうち石炭二、一五〇円、一月ないし三月木炭三俵、一〇月ないし一二月木炭三俵計六俵分一、九二〇円合計四、〇七〇円を認めたものである。右木炭は家事使用分と店舗使用分とが区別して経理されていないし、寒冷期以外は店舗用として木炭を使用する必要もないので、寒冷期以外の使用分は経費として認めることができない。

10  公租公課 四九、六二五円

原告主張の五一、六四〇円のうち事業税四六、八〇〇円、収入印紙八四〇円、固定資産税三、九七〇円の二分の一の一、九八五円の合計四九、六二五円を認めたものである。

11  図書費 一、八六〇円(原告主張のとおり)

12  人件費 一五、〇〇〇円(同右)

13  減価償却費 一〇、五一六円

原告主張の一二、九六七円のうち家屋ならびに店舗造作五、〇四九円、電蓄四、五〇〇円、陳列ケース七八七円、机椅子一八〇円の合計一〇、五一六円を認めたものである。

右家屋ならびに店舗造作の減価償却費は、次の定額法から五、〇四九円と認めた(昭和二五年法律第七一号所得税法第一〇条の五、同法施行規則一条ないし八条参照)。

(取得価額165,000円-残存価額16,500円)×0.034=5,049円

14  以上のほかに原告の主張する修理費、印刷費、広告宣伝費、雑費については、その内容、目的等が明確でないもの、および明確なものについても事業経営上の経費と認められないものとして否認する。

原告主張の接待費、旅費は被告の調査時に申立のなかつたほか使途も不明確であるから否認する。

三、つぎに、資産負債増減調査法によれば、原告の昭和二五年度の総所得金額は以下の計算のとおり七四八、〇六八円である。

(資産の部)

〈省略〉

(負債の部)

〈省略〉

1  預金内訳(いずれも富士銀行松江支店)

〈省略〉

2  売掛金内訳

〈省略〉

3  買掛金内訳

〈省略〉

そこで右資産増加額七三六、二四八円から右負債増加類二三二、六二〇円を減算して純資産増加類五〇三、六二八円が得られるところ、これに対し次式のとおり加減すると所得金類は七四八、〇六八円と算出される。

純資産増加額503,628円+(生活費150,000円+所得税支払類59,956円+市民税支払額45,000円)-減価償却費10,516円=所得金額748,068円

四、また広島国税局管内の原告と同種の事業を営む中庸の業者を調査して作成した所得標準率を適用し、前記被告の主張する売上金額から原告の昭和二五年度所得金額を推計すると次表のとおり五八八、一四七円(円位未満切捨)となる。

〈省略〉

もつとも、ピアノに対する所得標準率は、ピアノを除く商品に比して差益が少ないので卸売の所得標準率を適用し、修理による収入については、係争年分の所得標準率が作成されていないため、実地調査をして収支計算により所得金額を算出することとなつていたが、本件のばあい修理収入の収支計算が不能であり、かつ、収入金額も僅少であるので、これを除外した。

五、以上のとおりであるので、原告の昭和二五年度の総所得金額は、収支計算の方法、資産負債増減調査法、所得標準率適用のいずれの方法によつても、被告が本件更正決定で認定した五〇〇、五二二円を下らないから、右五〇〇、五二二円に対する年税額として、右五〇〇、五二二円から諸控除額六一、〇〇〇円(昭和二五年法律第七一号所得税法第一一条の五の規定による扶養控除額三六、〇〇〇円と同法第一二条の規定による基礎控除額二五、〇〇〇円の合計)を差し引いた課税総所得金額四三九、五〇〇円(国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律第五条により一〇〇円未満切捨)に右所得税法第一三条の税率を適用して一八四、七五〇円と算出したほか、過少申告加算税として右年税額から原告の申告した税額九四、〇〇〇円を差し引いた九〇、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)に右所得税法第五七条の税率の一〇〇分の五を乗じて四、五〇〇円と算出した本件更正定決は正当である。」と述べ、

立証として、乙第一号証の一、二、第二号証ないし第四号証の各一ないし三、第五号証、第六号証、第七号証の一、二、第八号証、第九号証の一ないし三、第一〇号証の一、二、(第一一号証は欠番)、第一二号証の一ないし四、第一三号証、第一四号証の一ないし三、第一五号証の一、二、第一六号証、第一七号証、第一八号証の各一、二、第一九号証の一ないし六、第二〇号証ないし第二二号証、第二三号証の一、二、第二四号証を提出し、証人富永正巳、同小村惣太郎、同中野哲男、同森田政治、同米沢久雄、同岡田五郎の各証言を援用し、甲第四号証の一、二、第五号証、第七号証の一ないし八、第九号証の一ないし七、第一〇号証の一ないし二一、第一三号証、第一五号証の各成立を不知、その余の甲号各証の成立を認めると述べた。

理由

一、原告が松江市においてその住宅の一部を店舗として洋楽器ならびに附属品の販売を業とするものであること、原告が被告に対してなした原告の昭和二五年度(同年一月一日ないし同年一二月三一日)所得税に関する確定申告につき、被告が昭和二六年八月二五日に、

総所得金額

事業所得 五〇〇、五二二円

諸控除額 六一、〇〇〇円

課税総所得金額 四三九、五〇〇円

所得税額 一八四、七五〇円

過少申告加算税額 四、五〇〇円

とする更正決定をなしたこと、原告が右更正決定を不服として同年九月二五日被告に対し再調査の請求をしたところ、間もなく被告が右請求を却下する決定をしたこと、原告が更に法定期間内である同年一一月一九日訴外広島国税局長に対し審査請求をしたところ、昭和二九年八月五日同局長は被告のなした再調査請求却下決定を取り消し、審査請求を棄却する決定をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二、そこで、まず収支計算の方法による原告の係争年度の事業所得についてみるに、収入の部に、期末棚卸商品として六五七、八四八円三〇銭を、委託商品残として四七、七六七円二〇銭を、修理収入として一〇、〇〇〇円を、支出の部に、仕入金額としてピアノ一、一八八、一八〇円、一般商品一、七七八、七八六円〇五銭の合計二、九六六、九六六円〇五銭を、期首棚卸商品として四〇〇、〇〇〇円をそれぞれ計上することは、いずれも当事者間に争いがない。

そこで、収入の部に計上される(一)売上金額(ピアノ、なお、これに関連する被告主張の支出の部に計上されるべきサービス品利益)、(二)売上金額(一般商品)、支出の部に計上される(三)必要経費を以下順次判断する。

(一)  売上金額(ピアノ)

係争年度中のピアノ売上原価を一、一八八、一八〇円とすることは当事者間に争いのないところ、被告は右売上原価に対して係争年度中の原告の売買実例六に基づく売上換算率〈省略〉を乗じて、その売上金額を算出すべきであると主張するに対し、原告は売上換算率を係争年度の売買実例三に基づく〈省略〉とすべきであると争うので売上換算率適用の前提となる係争年度中の原告のピアノ売上についての事実関係を検討する。

(1)  八束郡秋鹿小学校関係

小林惣太郎の証言とこれにより真正に成立したと認める乙第三号証の一ないし三、成立に争いのない乙第二〇号証を綜合すると、原告が二月一三日(以下の月日は、いずれも係争年度昭和二五年の月日である)に日本楽器製造株式会社広島出張所から秋鹿小学校納入分として、ピアノ一台を一八七、〇〇〇円、荷造費三、〇〇〇円、運賃三、八八〇円以上合計一九三、八八〇円で仕入れたこと、そして原告が同月に同小学校PTAに対し右ピアノ一台を代金二二〇、〇〇〇円、荷造費三、〇〇〇円、運賃三、八八〇円以上合計二二六、八八〇円で売り渡したことが認められる。原告本人尋問の結果中、秋鹿小学校PTAとの取引では右荷造費および運賃のほかピアノ椅子一脚を無償サービスしたが、これについて架空の領収書を発行していたという部分は措信し難く、ほかに右認定を左右するに足る証拠はない。

(2)  簸川郡伊波野小学校関係

成立に争いのない乙第四号証の一ないし三、前示乙第二〇号証を綜合すると、原告が二月二八日に前同仕入先から伊波野小学校納入分として、ピアノ一台を一八七、〇〇〇円、荷造費三、〇〇〇円、運賃三、八八〇円以上合計一九三、八八〇円で仕入れたこと、そして原告がその頃簸川郡伊波野村に対し右ピアノ一台を代金二二〇、〇〇〇円、荷造費三、〇〇〇円、運賃三、八八〇円以上合計二二六、八八〇円で売り渡したことが認められる。原告本人尋問の結果中、伊波野村との取引では、右荷造費および運賃、その他ピアノ椅子一脚等を無償サービスしたが、これについて架空の領収書を発行していたという部分は措信し難く、ほかに右認定を左右するに足る証拠はない。

(3)  出雲市四絡(よつがね)小学校関係

前示乙第二〇号証、証人米沢久雄の証言により真正に成立したと認める乙第二一号証を綜合すると、原告が三月一八日に前同仕入先から四絡小学校納入分として、ピアノ一台を一八七、〇〇〇円、付属ピアノ椅子一脚二、四八〇円、荷造費三、〇〇〇円、運賃三、八八〇円以上合計一九六、三六〇円で仕入れたこと、そして原告がその頃四絡小学校に対し右ピアノ一台を代金二二〇、〇〇〇円で売り渡し、その際売上原価に含まれているピアノ椅子一脚二、四八〇円、荷造費三、〇〇〇円、運賃三、八八〇円各相当以上合計九、三六〇円相当を原告において無償サービスとなしていたことが認められ、これに反する証拠はない。

(4)  松江市持田小学校関係

証人森田政治の証言により真正に成立したと認める乙第一七号証の一、証人田辺正夫の証言(但し後記措信しない部分を除く)とこれにより真正に成立したと認める乙第一九号証の一ないし六、前示乙第二〇号証、原告本人尋問の結果(但し後記措信しない部分を除く)を綜合すると、原告が三月二四日に前同仕入先から持田小学校納入分として、ピアノ一台を一八七、〇〇〇円、付属ピアノ椅子一脚二、四八〇円、荷造費三、〇〇〇円、運賃三、八八〇円円以上合計一九六、三六〇円で仕入れたこと、そして原告がその頃持田村ピアノ購入期成同盟会に対し右ピアノ一台を代金二二〇、〇〇〇円、運賃三、八八〇円以上合計二二三、八八〇円で売り渡し、その際右売上原価に含まれているピアノ椅子一脚二、四八〇円、荷造費三、〇〇〇円各相当以上合計五、四八〇円相当を原告において無償サービスとなしていたほか、三月九日前同仕入先から六、八〇〇円で仕入れたアコーデオン一個を無償サービスしたことが認められ、証人田辺正夫の証言とこれにより真正に成立したと認める甲第五号証中、原告が持田小学校にピアノカバー一枚を無償サービスしたとする部分は、前示乙第一九号証の四に照らし措信し難く、また原告本人尋問の結果中、原告が持田小学校に前記アコーデオンのケースを無償サービスしたが、これについて架空の領収書を発行していたという部分も措信し難く、ほかに右認定を左右するに足る証拠はない。

なお原告は右取引につき販売手数料三、〇〇〇円を支出していたと主張するが、これを認め得る証拠はない。

(5)  鳥取県西伯郡県(あがた)小学校関係

成立に争いのない甲第一六号証の一、二、乙第七号証の一、証人中野哲男の証言により真正に成立したと認める乙第七号証の二を綜合すると、原告が三月一三日に大阪開成館三木楽器店から県小学校納入分として、ピアノ一台を一八二、五〇〇円で仕入れたこと、そして原告が同月二一日に同小学校に対し右ピアノ一台を代金二二〇、〇〇〇円で売り渡し、その際木琴五組を無償サービスしたことが認められ、これに反する証拠はない。しかして、右木琴五組の種類、仕入価額は判明しないところ、成立に争いのない乙第一七号証の二によれば、その頃原告が木琴を仕入れていた日本楽器製造株式会社広島出張所からの仕入価額は、東海シロホン一六が単価二二〇円ないし二二四円、東海シロホン一八が単価二七三円ないし二九〇円、コンサートシロホン一六半音付が単価四四八円、東海シロホン一八半音付が単価五四六円であつたことが明らかであるので、県小学校に無償サービスをした木琴の仕入価額は高くとも最高価品に次ぐ右単価四四八円従つて五組の合計二、二四〇円程度と推認するのが相当である。

さらに県小学校との取引について、原告がピアノ丸椅子一脚、ピアノカバー一枚仕入価額五、〇〇〇円相当を無償サービスしたことは当事者間に争いがない。右ピアノ丸椅子の価額については被告が仕入価額二、三二五円と主張するに対し、原告は三、二五〇円と主張するところ、前示乙第七号証の二によれば、原告が前示大阪開成館三木楽器店から、県小学校との取引からおよそ一カ月後の四月二四日に仕入れたピアノ丸椅子一脚の仕入実例によれば、その価額が二、三二五円であることが明らかであり、原告主張の価額による仕入実例を認め得る証拠はないのであつて、右三木楽器店から仕入実例によれば、県小学校に無償サービスをしたピアノ丸椅子一脚の仕入価額を被告主張の二、三二五円と推認するのが相当である。

ところで、原告は県小学校との取引に視察団接待費として二二、二〇〇円を支出したと主張し、原告本人尋問の結果によれば、県小学校との取引のサービスがよければ県村の中学校もピアノを原告から購入するというので、原告が教頭とPTAの者を奈良県須田中学校まで日程二、三日の視察旅行に案内し、その費用二、三万円を支出し、甲第一五号証は当時の写真であるというのであるが、右支出に関しては、参加者人員数、鉄道運賃等交通費、宿泊費等その内訳について概要すら窺うに足る証拠がなく、右出費が特殊なものであることからして右原告本人尋問の結果のみによつて出費額をたやすく推定することもできず、結局県小学校との取引におけるサービスとして、これを計上することはできないといわねばならない。

(6)  簸川郡平田町久多美小学校関係

成立に争いのない甲第一七号証の一、二、前示乙第七号証の一、二を綜合すると、原告が四月一五日に大阪開成館三木楽器店から久多美小学校納入分として、ピアノ一台を一八二、五〇〇円で仕入れたこと、そして原告が同月二一日頃に同小学校PTAに代金二五〇、〇〇〇円で売り渡したことが認められ、これに反する証拠はない。

右久多美小学校との取引について、ピアノ丸椅子一脚、ピアノカバー一枚仕入価額六、五〇〇円相当、ヴアイオリン・ケース付き一挺をそれぞれ無償サービスしたことは当事者間に争いがない。

しかして、右ピアノ丸椅子の価額については被告が二、五〇〇円と主張するに対し、原告は三、二五〇円と主張するところ、前示乙第七号証の二によれば、原告が前同仕入先から、久多美小学校との取引後間もない五月一三日に仕入れたピアノ丸椅子一脚の仕入実例において、その価額が諸掛とも二、五〇〇円であることが明らかであり、原告主張の価額による仕入実例を認め得る証拠はないのであつて、右仕入実例によれば、久多美小学校PTAとの取引で無償サービスしたピアノ丸椅子一脚の仕入価額を被告主張の二、五〇〇円と推認するのが相当である。

また、前記ヴアイオリン・ケース付きの価額については被告が二、六一〇円と主張するに対し、原告は四、〇〇〇円と主張するところ、成立に争いのない乙第二二号証によれば、原告がその頃名古屋市の合資会社サカクラ商会からヴアイリオンを仕入れていた実例において、ヴアイオリンの仕入最高価額が単価一、九六〇円、同ケースの仕入価額が単価六五〇円であることが明らかであり、原告主張の価額による仕入実例を認め得る証拠はないのであつて、右仕入実例によれば、前記ヴアイオリン・ケース付一挺の仕入価額を右一、九六〇円と六五〇円の合計二、六一〇円、すなわち被告主張の額と推認するのが相当である。

なお右取引につき、原告は木琴一六半音付五組三、〇〇〇円相当をも無償サービスしたと主張するが、これを認め得る証拠はなく、かえつて前示甲第一七号証の一、二によれば、右木琴五組は代金三、〇〇〇円で売り渡したものであることが認められ、また、販売人手数料三、〇〇〇円を支出したとの原告主張も、これを認め得る証拠はない。

(7)  売上先不明分

係争年度期首のピアノの棚卸高が〇円であることは当事者間に争いがないので、係争年度中のピアノ売上原価総額は、結局前記仕入金額一、一八八、一八〇円にほかならないところ、右一、一八八、一八〇円のうち売上先の判明した分に相当するのは、前記(1)の一九三、八八〇円、(2)の一九三、八八〇円、(3)の一九六、三六〇円、(4)の一九六、三六〇円、(5)の一八二、五〇〇円、(6)の一八二、五〇〇円の合計一、一四五、四八〇円であるから、差引四二、七〇〇円が売上先の判明しない分であること計算上明らかである。

しかして、前示乙第七号証の一、二、乙第二〇号証、上叙(1)ないし(6)の各取引実例を綜合すると、五月二五日大阪開成館三木楽器店から仕入れた乙第七号証二記載「(教)ピアノ♯一五〇、一台、諸掛とも四二、七〇〇円」が売上先不明分に該当すること明白である。

そして上叙(1)ないし(6)の各取引実例によれば原告は各仕入先からピアノを仕入れた直後にこれを販売していることが窺われ、このことから推して右五月二五日に仕入れたピアノもその直後頃販売したものと認められる。

しかしながら、その販売価額、サービス品の有無等に関しては、証拠上これを窺い得る資料が一切存在しない。

以上の次第であるので、右(1)ないし(6)の各取引の販売価額、売上原価(仕入金額)、売上原価に含まれていないサービス品価額、以上の各合計を一覧表にして示すと次表のとおりとなる。そして右各取引における販売利益についてみるに、売上原価に含まれているサービス品価額は、もともと売上原価に含まれているものを原告において取引に際しサービス品となしていたものに過ぎないから、販売利益の算出上これを顧慮する必要はなく、従つて販売利益は、販売価額から、売上原価と売上原価に含まれていないサービス品価額とを控除し次表のとおり算出される。

〈省略〉

そして右表によれば、前記(1)ないし(6)の取引について売上金額として計上すべき金額は、次式により一、三三九、六六五円と算出される。

販売価額合計1,367,640円-売上原価に含まれていないサービス品価額合計27,975円=売上金額1,339,665円

なお被告は、前記(1)ないし(6)の取引から売上換算率を一・一七と算出して、前記仕入金額一、一八八、一八〇円を一括して、これに右一・一七を乗じ、売上金額として一、三九〇、一七〇円を算出することを主張しているが、右被告主張の方法は右一、一八八、一八〇円のうち前記(1)ないし(6)の取引の分に相当する一、一四五、四八〇円に関する部分についてみるに、その必要もないのに右売上換算率を乗じて再び売上金額を求めており、しかも右売上換算率を小数点以下四位まで求めると計算上一一、六九五(以下切捨)となること明らかであるところ、四捨五入法によりこれを一・一七としたばあい、前記一、一四五、四八〇円に右一・一七を乗ずると一、三四〇、二一一円六〇銭となり、前記一、三三九、六六五円との間に五四六円六〇銭の計算増まで生じており、その失当であることは明白である。

つぎに前記(7)の取引についてみると、販売価額、売上原価に含まれていないサービス品の有無等が不明であるから、売上金額として計上すべき金額は、これを推計して算出するのほかないところ、その推計の方法は、係争年度中の右(7)の取引以外の全取引であり、かつ仕入金額からみて係争年度中の全取引の九割六分強に該当する前記(1)ないし(6)の各取引から求め得る売上換算率によるのが最も適切であると解せられる。

しかして右売上換算率は、次式により明らかなとおり一・一六九五(以下切捨)である。

(販売利益合計194,185円+売上原価合計1,145,480円)÷売上原価合計1,145,480円=1.1695(以下切捨)

そこで前記(7)の取引の売上原価四二、七〇〇円に右売上換算率一・一六九五を乗ずると、その売上金額として四九、九三七円六五銭を得ることができる。

従つて収入の部に計上すべきピアノの売上金額は、前記(1)ないし(6)の取引の一、三三九、六六五円と右(7)の取引の四九、九三七円六五銭との合計一、三八九、六〇二円六五銭である。

ところで、上叙方法により売上金額を算出した際に明らかとなつたピアノ販売にともなう売上原価に含まれていないサービス品価額合計二七、九七五円と前記(7)の取引についても売上原価に含まれていないサービス品価額として推定される一、〇二四円八〇銭(前記二七、九七五円のその売上原価一、一四五、四八〇円に対する比率を求めると〇・〇二四(以下切捨)であるので、(7)の取引についても右比率によるサービス品価額が存在したものと推認すべきであり、その売上原価四二、七〇〇円に右〇・〇二四を乗ずると上記一、〇二四円八〇銭となる。)との合計二八、九九九円八〇銭は、収入の部において、一般商品売上金額の中に、後記一般商品売上換算率一・三〇を乗じて計上されているから、この部分について売上利益がないので、収支計算の方法上これを是正すべきである。従つて右二八、九九九円八〇銭に売上利益率〇・三〇を乗じて得た八、六九九円九四銭を支出の部に計上すべきである。

(二)  売上金額(一般商品)

係争年度中の一般商品売上原価を一、四七三、一七〇円五五銭とすることは当事者間に争いがないところ、被告は右売上原価に対して売上換算率〈省略〉を乗じてその売上金額を算出すべきであると主張するのに対し、原告は右一、四七三、一七〇円五五銭のうち小売販売(店売ならびに小売)分と主張する一、二四三、一七〇円五五銭については被告の主張する右売上換算率を乗じて売上金額を算出することは争わないところであるが、その余の二三〇、〇〇〇円は委託販売分であり、この部分に対しては売上換算率〈省略〉を乗じて売上金額を算出すべきであると争うので、この点を検討する。

すなわち、原告は、係争年度中に委託販売分として、仕入金額によれば、進電社ラジオ店に一〇、〇〇〇円、原恵美子に一〇〇、〇〇〇円、石塚一男に一二〇、〇〇〇円各相当以上合計二三〇、〇〇〇円相当の取引が存在したと主張し、原告本人の尋問の結果によれば、結論的に原告の主張のとおり右程度の委託販売取引が存在し、これによる販売利益は一割あるかなしであるというのみであつて、これだけから到底原告主張を認めるに足りないというべきであるが、右原告本人尋問の結果のほかには、進電社ラジオ店および石塚一男関係については全く証拠となるべき資料がなく、原恵美子の関係では、証人原恵美子の証言により真正に成立したと認める甲第四号証の二(原恵美子作成の原告宛証明書)の原告の原恵美子間の係争年度一月一日から一二月末までの委託販売取引高が一〇〇、〇〇〇円程度である旨の記載は、成立に争いのない乙第五号証ならびに証人原恵美子の証言に照らし全く措信し得るものではなく、また右乙第五号証ならびに右証言によつても、原恵美子が係争年度九月に開業し原告からの委託販売を初めたこと、そしてその取引は以後二、三年間続けられたが、取引価額も右全期間を通じ数万円程度に過ぎず、従つて係争年度中の取引高は極めて僅かであることが窺われるにとどまり、右以上に係争年度中の取引高を認定することもできず、ほかにこれを認定するに足る証拠は存しないのである。従つて原告の主張するところは、その前提となるべき委託販売の存在を認めることができないのであつて、原告の委託販売分として主張する仕入金額二三〇、〇〇〇円につきその余の一、二四三、一七〇円五五銭と異なつた売上換算率を適用すべき格別の根拠もないから、右一、二四三、一七〇円五五銭につき売上換算率を〈省略〉とする につき当事者間に争いのないこと、成立に争いのない乙第二号証の一および三ならびに証人富氷正巳の証言を綜合して認めることのできる本件審査請求に際し原告の申し立てるピアノ以外の商品の荒利(売買差益率)が三〇%であつたところ、これについて広島国税局協議官が調査した結果ピアノ以外の主要商品について得た荒利が三一・六%であつたことからすれば、原告主張の二三〇、〇〇〇円についても、その余の一、二四三、一七〇円五五銭と同様に〈省略〉の売上換算率を適用するのが相当であると解せられる。

以上の次第であるので、結局、前記売上原価一、四七三、一七〇円五五銭全額に対し〈省略〉を乗じ、被告主張のとおり売上金額一、九一五、一二一円七一銭(銭位未満切捨)が算出されるから、これを収入の部に計上すべきである。

(三)  必要経費

原告主張の3組合費四、八四〇円、4消耗品事務用品費五、四一三円、11図書費一、八六〇円、人件費一五、〇〇〇円、以上合計二七、一一三円を必要経費として計上することについては当事者間に争いがない。

その余の必要経費につき原告の主張する項目番号の順に従い以下順次判断する。

1  運賃

原告主張の運賃三、二六二円のうち九月一八日一〇〇円を除くその余の三、一六二円を必要経費とすることについては当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第六号証の五(到着伝票)ならびに原告本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を綜合すると、原告が九月一八日に日本通運株式会社に対して、関西楽器が梅田駅から原告に宛てて発送したオルガン一個につき着払運賃五〇円取扱料六円配達料四四円以上合計一〇〇円を支払つたことが認められ、これに反する証拠はない。しかしながら、右甲第六号証の五の運賃収受方法欄の記入文字の判読は不能であり、また、その到着収入(配達料、取扱料)欄の傍らには伝票作成者において「他店貸」と記入しており、或いは右運賃の支払は立替払であるかも知れない疑いが存するところ(右「他店貸」なる記載について、原告本人尋問の結果によれば、「他店賃」なる記載であるかも知れないというのであるが、これは単なる意見の陳述に過ぎず採用しない)、この点に関する事情を明らかにする証拠は何も存しないので、右一〇〇円の支出は証拠上必要経費と認めるに由ないとするほかない。

従つて必要経費として計上する運賃は前記当事者間に争いのない三、一六二円のみとすべきである。

2  修繕費

原告主張の修繕費一五、二六七円のうち三月一七日四、〇二五円、六月三〇日五〇〇円、一〇月一五日二、三〇〇円以上合計六、八二五円を必要経費とすることについては当事者間に争いがない。

証人長谷川仁の証言により真正に成立したと認める甲第七号証の一ないし八、原告本人尋問の結果を綜合すると、原告が、

(1) 八月二一日富士電機工業所こと中島良逸に四四五円、

(2) 九月一七日前同人に電蓄スピーカー修理代金として五〇〇円、

(3) 三月二九日中国電気工事株式会社島根支店に一、八二〇円、

(4) 五月二九日有限会社松江木工所に二、二〇〇円、

(5) 七月一二日藤井俊男商店に原告が外交等営業上使用する鞄の修理代金として二二〇円、

(6) 八月一九日高見に対してケースペイント塗装代金として七〇〇円、

(7) 一二月三〇日頃に買入れた店舗用ストーブにつき、同月三一日福本有助に対してストーブ石および据付代金として二二〇円、

(8) 係争年度中月日不詳の日に亜鉛銅板工事業太田政次郎に対し二、三三七円

をそれぞれ支払つたことが認められ、これに反する証拠はない。

右事実によれば、(2)五〇〇円、(5)二二〇円、(6)七〇〇円、(7)二二〇円以上合計一、六四〇円は、原告の営業のための必要経費と認めるのが相当である。しかしながら、(1)、(2)、(3)、(4)、(8)の各支出は、果して原告の営業上の支出であるのかどうか、その修繕の内容等が証拠上不明であるので、これを必要経費として計上するに由ないというべきである。

従つて修繕費は、前記当事者間に争いのない六、八二五円と右一、六四〇円の合計八、四六五円とすべきである。

5  印刷費

原告主張の印刷費一三、八九〇円のうち五月三〇日六〇〇円、六月一三日三、九〇〇円、九月二五日一、七六〇円、一二月一八日三〇〇円以上合計六、五六〇円を必要経費とすることについては当事者間に争いがない。

証人長谷川仁の証言により真正に成立してと認める甲第九号証の一ないし七によれば、

(1) 一月一〇日恵運社印刷所こと山崎一良に対し官製はがき五〇〇枚代金一、〇〇〇円、右はがき五〇〇枚印刷代金二〇〇円以上合計一、二〇〇円

(2) 九月二五日前同人に対し官製はがき三〇〇枚代金六〇〇円、右はがき三〇〇枚印刷代金一五〇円以上合計七五〇円、

(3) 八月二日昭和印刷株式会社に「河合ピアノ」印刷代金一、五〇〇円、曲目カード印刷代金三〇〇円以上合計一、八〇〇円、

(4) 同月三一日前同会社に「ピアノの買い方」一五〇部印刷代金七五〇円、契約書一五〇枚印刷代金三五〇円、名刺(清乃、小池、猪上計三〇〇枚)印刷代金三〇〇円以上合計一、四〇〇円、

(5) 九月三日前同会社に名刺(川岡、清野、田本各一〇〇枚)印刷代金四五〇円、

(6) 八月二七日とやま孔房に「推せんの言葉」印刷代金および断さい料二九〇円、

(7) 九月一日松江孔芸社にはがき六〇〇枚同印刷代金一、四四〇円

をそれぞれ支払つたことが認められ、これに反する証拠はない。

右事実によれば、(1)一、二〇〇円、(2)七五〇円、(7)一、四四〇円以上小計三、三九〇円は、前示原告の業種や売上金額から窺われる営業の規模等から考えると、多数枚数のはがき印刷は、通常、営業上なされたとみるのが相当であるので、これを原告の営業のための必要経費と推認すべく、また、(3)一、八〇〇円、(4)のうち「ピアノの買い方」印刷代金七五〇円、契約書印刷代金三五〇円計一、一〇〇円、(6)二九〇円以上小計三、一九〇円は、印刷物の性質から原告の営業のための必要経費と推認されるので、右三、三九〇円と三、一九〇円の合計六、五八〇円は必要経費として計上すべきであるが、(4)のうち名刺印刷代金三〇〇円および(5)は、いかなる印刷をした名刺であるのか、また営業上必要とした名刺であるのか証拠上一切不明であつて、これを必要経費として計上するに由ないものである。

従つて印刷費は前記当事者間に争いのない六、五六〇円と右六、五八〇円の合計一三、一四〇円とすべきである。

6  広告宣伝費

原告主張の広告宣伝費二七、四〇〇円のうち島大教育学部に対する一月二二日二〇〇円、一〇月一九日一、五〇〇円、島根新聞社に対する九月分六〇〇円、一、五〇〇円、一〇月分一、二〇〇円、一、五〇〇円、松江軽音楽協会に対する二〇〇円、児童福祉施設連盟に対する五〇〇円、松江市公会堂映画協会に対する六〇〇円以上合計七、八〇〇円を必要経費とすることについては当事者間に争いがない。

証人長谷川仁の証言によつて真正に成立したと認める甲第一〇号証の一ないし三、五ないし一八、二〇、二一、原告本人尋問の結果を綜合すると、

(1) 一二月九日島根大学島根師範学校付属小学校に対し研究冊子広告料として五〇〇円、

(2) 二月中、乃木小学校に対し音楽会プログラム類広告料として二〇〇円、

(3) 三月中、島根新聞社に対し同月八日電話番号広告料として五〇〇円、

(4) 七月三一日前同新聞社に同月二四日「天神祭」広告料として一、〇〇〇円、

(5) 同月三一日前同新聞社に対し同月二三日、二六日広告料として二、〇〇〇円、

(6) 係争年度中に前同新聞社に対し広告料一一月分として一、二〇〇円(甲第一〇号証の一〇には年中広告料一一月分とあるが、当事者間に争いのない一〇月分広告料が一、二〇〇円、九月、一〇月分年中広告料が各一、五〇〇円であることから、年中分でないと認める)。

(7) 係争年度中に前同新聞社に年中広告料一一月分として一、五〇〇円、

(8) 四月一九日朝日小学校PTA文化部に対し前記(2)と同趣旨の広告料として二〇〇円、

(9) 六月九日島根防犯タイムス社に対し広告料として八〇〇円、

(10) 七月四日川津小学校に対し同小学校研究会の研究物広告料として一、〇〇〇円、

(11) 同月一七日葛上清治に対して奉納額寄付金として一、〇〇〇円、

(12) 八月中、山陰日日新聞社に対し七月一九日掲載広告料として五〇〇円、

(13) 八月中、前同新聞社に対し七月二四日掲載広告料として八〇〇円、

(14) 一〇月二七日雑賀小学校に対しPTA新聞広告料として三〇〇円、

(15) 一二月五日、日本海新聞松江支局に対し七月二一日、二五日、三〇日のピアノオルガン販売広告料として二、〇〇〇円、

(16) 一二月二一日前同新聞社に対し八月六日、一三日、二〇日、二六日の前同広告料として二、〇〇〇円、

(17) 一二月三一日前同新聞社に対し七月二六日の駐在販売員六名急募広告料として九〇〇円、

(18) 一二月一九日松江地方貯金局ダンス愛好会音楽部に対し一〇〇円、

(19) 係争年度中、島根県教職員組合に対し広告料として八〇〇円

をそれぞれ支払つたことが認められ、これに反する証拠はない。

右事実によれば、(3)ないし(7)計六、二〇〇円、(12)および(13)計一、三〇〇円、(15)ないし(17)計四、九〇〇円以上小計一二、四〇〇円の各新聞社に対する新聞掲載広告料の支出は、原告の業種、営業規模からみて営業の遂行上相当な広告をしたものと解せられるから、必要経費と認める。また、(1)五〇〇円、(2)二〇〇円、(10)一、〇〇〇円、(14)三〇〇円、(19)八〇〇円以上小計三、〇〇〇円の支出は、いずれも学校関係の印刷物の広告であつて、原告の業種からみて、右広告掲載をもつて直ちに単なる交際費ないし寄付金であると断定もし難く、なお営業上必要な広告と考えられ、経費と認めるべきである。

しかしながら、(9)については広告料支払先の性格からみて、営業上必要な広告であつたと認め難く、(11)および(18)については、その広告の内容を認め得る証拠がない。また原告主張の松江高校音楽部に対する三〇〇円の支出は、証人長谷川仁の証言により真正に成立したと認める甲第一〇号証の一九によつても係争年度の一〇月一六日の支出であるかどうか不明であり、日本海新聞松江支局に対する九月一〇日、一七日、二四日分の二〇〇円は、証人長谷川仁の証言により真正に成立したと認める甲第一〇号証の四(請求書)によれば原告が右広告をしたことは認められるが、原告がその支払をしたことを認めるに足る証拠はないので、以上はいずれも必要経費として計上することはできない。

従つて広告宣伝費は前記当事者間に争いのない七、八〇〇円と前記新聞掲載広告として認定した一二、四〇〇円、学校関係広告料として認定した三、〇〇〇円の合計二三、二〇〇円とすべきである。

7  電話料

原告が電話料として一四、三七二円を支出したことは当事者間に争いのないところ、被告は右電話料には家事使用分等も含まれており、その割合も不明であるので二分の一を営業用とすべきであると主張するに対し、原告は右全額を必要経費に計上すべきであると主張するので、これを検討するに、原告本人尋問の結果によれば、電話は家事用には殆んど使用せず、その八割程度を間違いなく営業の用に供していたというのであるが、ほかに電話基本料金度数料等明細、貸電話料収入の有無等を窺い得る証拠は何もない。しかしながら、原告の業種、営業規模、原告本人尋問の結果により認められる原告方建物が二階建延べ建坪二〇坪位で階下六畳一間を居室とし、階下店舗七坪位を係争年度四月頃模様替により九坪位とし、階上全部を倉庫とし、電話は右店舗に設置していたこと、ならびに当時原告方家族は原告と母と妻の三人であつたことからすれば、電話料の八割が営業用であつたという原告本人尋問の結果のとおり認定するのが妥当である。

従つて必要経費として計上する電話料は前記一四、三七二円の八割である一一、四九七円六〇銭とすべきである。

8  電灯料

原告が電灯料として中国配電株式会社に四、二三八円を支出したことは当事者間に争いのないところ、被告は右電灯料には家事使用分が含まれており、その割合が不明であるので二分の一を営業用とすべきであると主張するのに対し、原告は全額を必要経費に計上すべきであるに主張するので、これを検討するに、原告本人尋問の結果によれば、当時前記居室では夜間のみ四〇ワツトか六〇ワツト一灯を使用し、台所に設置した一灯は殆んど使用せず、店舗では一〇〇ワツト四、五灯を夜間だけではなく雨天等のときは昼間も点灯していたもので、電灯料の八割位は店舗の用に供したというのであるが、成立に争いのない甲第一二号証の一ないし一一によれば、係争年度中で電力使用量の最も多い一二月で一日平均使用量が二キロワツト程度、電力使用量の最も少ない七月で一日平均使用量が一キロワツト程度であることが明らかであつて、右一日平均使用量からすると、原告本人尋問の結果中、店舗で一〇〇ワツト四、五灯を使用していた等営業用使用電力が八割位であつたとする点は容易く信用し難い。そして、電灯のほかラジオ等使用の有無も証拠上一切不明である。

そこで原告の業種、営業の規模、店舗住宅の状況、家族数等から営業用電灯料を推定するに、全電灯料の七割と考えるのが妥当である。

従つて必要経費に計上する電灯料は前記四、二三八円の七割である二、九六六円六〇銭とすべきである。

9  新炭費

原告主張の新炭費五、三五〇円のうち石炭二、一五〇円、木炭一月ないし三月、一〇月ないし一二月につき毎月一俵計六俵分一、九二〇円以上合計四、〇七〇円を必要経費として計上することについては当事者間に争いがない。

原告は、木炭について四月、五月各一俵、六月ないし九月各半俵計四俵も必要としたと主張するが、原告本人尋問の結果中、右主張に添うかのごとき部分は措信し難く、ほかにこれを認めるに足る証拠はない。

従つて薪炭費は被告主張のとおり前記当事者間に争いのない四、〇七〇のみとすべきである。

10  公租公課

原告主張の公租公課のうち事業税四六、八〇〇円、固定資産税の一部一、九八五円、収入印紙八四〇円以上合計四九、六二五円を必要経費として計上することについては当事者間に争いがない。

原告は固定資産税の全額四、〇〇〇円を必要経費とすべきであると主張するが、成立に争いのない甲第一四号証によれば、原告は係争年度固定資産税として賦課額建物分一、五九〇円土地分二、三八〇円に対し建物分一、五九〇円土地分二、〇八〇円計三、六七〇円を納付したことが明らかであつて、前記原告方建物使用状況からすれば、右三、六七〇円のうち被告の認容したその二分の一強にあたる一、九八五円をもつて必要経費と認めるのが相当であり、その余は営業外の支出とすべきである。

従つて公租公課は被告主張のとおり四九、六二五円とすべきである。

12  接待費は、原告本人尋問の結果からその主張額を認めるに足らず、ほかにこれを認めるに足る証拠もなく、また、13旅費および15雑費は全く証拠がないので、以上の項目はいずれも必要経費として計上するに由ない。

16 減価償却費

原告主張の減価償却費のうち電蓄四、五〇〇円、陳列ケース七八七円、机椅子一八〇円以上合計五、四六七円を必要経費とすることは当事者間に争いがない。

しかして、家屋ならびに店舗造作の減価償却費については、被告が五、〇四九円(取得価額一六五、〇〇〇円)と主張するのに対し、原告は七、五〇〇円(取得価額二五〇、〇〇〇円)と主張するので、この点を検討してみるに、減価償却費の算出方法として取得価額からその一〇〇分の一〇に相当する残存価額を控除してこれを耐用年数三〇年で除して減価償却費を求める定額法によることじたいは当事者間に争いがない(原告は取得価額二五〇、〇〇〇円、耐用年数三〇年として減価償却費七、五〇〇円を算出しているのであるから、上記定額法によつていることは明らかである)。

しかしながら、双方の主張する取得価額については、それぞれの立証によつても認めることができないので、結局当事者間に争いのない一六五、〇〇〇円の限度をもつて取得価額となすべく、これに対して定額法を適用すると、次式により減価償却費は四、九五〇円となる。

〈省略〉

もつとも被告は右式の〈省略〉を〇・〇三四と換算して計算して五、〇四九円とし、右四、九五〇円以上にこれを認容して主張しているので、右五、〇四九円をもつて減価償却費とすべきである。

従つて減価償却費は被告主張のとおり前記当事者間に争いのない五、四六七円と右五、〇四九円の合計一〇、五一六円とすべきである。

以上の次第であるから、必要経費の総額は、前記当事者間に争いのない組合費、消耗品事務用品費、図書費、人件費、合計二七、一一三円と、運賃三、一六二円、修繕費八、四六五円、印刷費一三、一四〇円、広告宣伝費二三、二〇〇円、電話料一一、四九七円六〇銭、電灯料二、九六六円六〇銭、薪炭費四、〇七〇円、公租公課四九、六二五円、減価償却費一〇、五一六円との合計一五三、七五五円二〇銭である。

そこで上叙認定にかかる(一)売上金額(ピアノ)ならびにサービス品売上利益、(二)売上金額(一般商品)、(三)必要経費に基づき収支計算を行なうと次の収支計算のとおり当期利益は四九〇、九一八円六七銭と算出され、従つて原告の係争年度の所得金額は右四九〇、九一八円六七銭ということができる。

(収入の部)

売上金額(ピアノ) 一、三八九、六〇二円六五銭

同 (一般商品) 一、九一五、一二一円七一銭

期末棚卸商品 六五七、八四八円三〇銭

委託商品残 四七、七六七円二〇銭

修理収入 一〇、〇〇〇円

合計 四、〇二〇、三三九円八六銭

(支出の部)

仕入金額(ピアノ) 一、一八八、一八〇円

同 (一般商品) 一、七七八、七八六円〇五銭

期首棚卸商品 四〇〇、〇〇〇円

必要経費 一五三、七五五円二〇銭

サービス品売上利益 八、六九九円九四銭

当期利益 四九〇、九一八円六七銭

合計 四、〇二〇、三三九円八六銭

三、前記収支計算方法によると原告の係争年度所得金額は四九〇、九一八円六七銭にとどまり被告が本件更正決定で認定した所得金額五〇〇、五二二円を下廻るので、更に被告主張の資産負債増減調査法による原告の係争年度の事業所得の算出を検討する。

まず、資産の部における無尽掛金、前渡金、商品、負債の部における買掛金、借入金、未払公課の各科目が、いずれも被告主張のとおりの期首金額、期末金額、差引増減額であることは、原告の認めて争わないところである。

そこで原被告間に争いのある資産の部における現金、預金、売掛金、備品買入、家屋新築改造費の各科目についてみるに、現金に関して、被告は期首金額九〇、〇〇〇円、期末金額八二、〇〇〇円、差引増減額減八、〇〇〇円と主張するに対し、原告は期首金額二九〇、〇〇〇円、期末金額四〇、〇〇〇円、差引増減額減二五〇、〇〇〇円と主張するところ、成立に争いのない乙第二号証の二、証人富永正巳の証言によつても、審査請求に際して、広島国税局協議団において、「現金及預金」なる科目につき被告が原告の提出した審査請求書に基いて調査した結果により、期首金額九〇、〇〇〇円、期末金額八二、〇〇〇円、差引増減額減八、〇〇〇円と認定したことが窺われるだけであつて、仮りに右現金と一括認定された預金は被告が本訴で主張する預金科目に含まれていない預金であるにしても、右「現金及預金」の明細内訳ないしは被告がいかなる原資料に基いて右調査をなしたのか右認定額を得るに至つた経緯を窺う由もなく、右証拠のみから被告主張は認め難く、ほかに同主張を認めるに足る証拠はない。そして、原告についても、その主張を認めるに足る証拠はない。従つて、現金の期首金額、期末金額、差引増減額は不明といわねばならない。

ところで、資産負債増減調査法においては、一の科目について得られる差引増減額はそのまま最終的に得られるべき資産負債増減額に変動を及ぼすものであるから、一の科目の差引増減額が不明であるとき当該科目を除外して計算することはできないというべきである。従つて前記現金科目が不明である以上、資産負債増減調査法による所得金額の算出は不能であるので、その余の争点の判断をするまでもなく、右調査法による被告主張の所得金額はこれを認めるに由ない。

四、次に被告主張の所得標準率の適用を検討する。

成立に争いのない乙第二四号証、証人岡田五郎の証言を綜合すると、広島国税局が係争年度分として、その管内の中程度の楽器類販売業者につき抽出調査した結果、ピアノその他楽器類の販売は売上金一〇〇円につき卸一二円、小売二二円の所得標準率を得たことが明らかである。

しかして被告は、右所得標準率によりピアノを除く商品には小売二二%を、ピアノは卸売一二%を適用して所得を推計すべきであると主張するのであるが、一般商品につき右所得標準率を適用することはともかくとして、ピアノ小売については、前記ピアノおよび一般商品の各売上換算率からみてもピアノと一般商品とでは売買差益が相当に異なることが優に推測されるのであるけれども、右卸売の標準率をそのまま適用するに至つてはその根拠もなく、もはや所得標準率による推計方法としては許されないものと解すべきである。

従つて、所得標準率の適用による被告主張の所得金額もまたこれを認めるに由ない次第である。

五、以上のとおりであるので、原告の昭和二五年度の総所得金額は四九〇、九一八円六七銭であるから、これに対する所得税額は、右四九〇、九一八円六七銭から当事者間に争いのない諸控除額六一、〇〇〇円を控除した課税総所得金額四二九、九〇〇円(国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律第五条により一〇〇円未満切捨)に次式のとおり所得税法第一三条(昭和二五年法律第七一号)所定の税率を乗じた一七九、九五〇円である。

算式 5万円以下 〈省略〉

5万円をこえ8万円以下 〈省略〉

8万円をこえ10万円以下 〈省略〉

10万円をこえ12万円以下 〈省略〉

12万円をこえ15万円以下 〈省略〉

15円万円をこえ20万円以下 〈省略〉

20万円以上 〈省略〉

合計 179,950円

そして、これに対する過少申告加算税額は、同法第五七条により、右一七九、九五〇円から成立に争いのない甲第一号証により明らかな申告税額九四、〇〇〇円を差し引いた八五、〇〇〇円(同法第五七条三項、第五五条三項により一、〇〇〇円未満切捨)に税率一〇〇分の五を乗じた四、二五〇円である。

従つて本件更正決定中、右総所得金額四九〇、九一八円六七銭、所得税額一七九、九五〇円、過少申告加算税額四、二五〇円をこえる部分は違法であるから取消を免れず、本訴請求は、右の限度で理由があるから正当として認容すべく、その余は理由がなく失当として棄却すべきである。

よつて、民事訴訟法第九二条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 五十部一夫 裁判官 平田孝 裁判官 山口和男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例